ユーザー、プロダクト、チーム
こんにちは、こくぼ @yusuke_kokubo です。 プロダクトをつくることと、つくりかたをデザインすることが好きです。
早速ですが、プロダクトをつくる流れをごくごく簡単にまとめてみました。
細かいことを言うと、他にもプロダクトのリリースに至るまでのプロジェクトについての話があったり、リリース後のユーザーサポートやメトリクスの話があったりしますが割愛します。
今日はチームづくりの話をします
よいプロダクトはよいチームによってつくられます。 よいチームをつくるためにはよいマネジメントが必要です。
ボトムアップの行動と文化は勝手には育ちません。 会社としてトップダウンで環境をつくり、指針をつくることで文化が育まれる、というのがぼくの考えです。
今日はぼくがMisocaで行っているチームづくりについてお話しします。 チーム内のコミュニケーションを活性化するために、Misocaではうなぎミーティングというものをやっています。
普段交わらない人とのコミュニケーション
数十人を超える規模の会社になると、名前も知らなければ顔もよくわからない人が出てきますよね。 そういう人とのコミュニケーションどうしてますか?
Misocaでは現在20数人のメンバーがいて、名前と顔はわかるけど、それでも日常的にかかわる人、というのは限られてきます。 何かのプロジェクトをやることになったとき、全く話したことがない人とゼロから関係をつくっていくのは大変ですよね。
ましてや、どうやって自己紹介して、どうのように相手のことを知るのか、心理的にも負担が大きいです。 そこで第三者として「うなぎ」を持ち込みます。
村上春樹のうなぎ説
うなぎ説とは、村上春樹さんという毎年ボジョレーヌーボーの季節になるとノーベル賞を逃すことで有名な作家さんが提唱した概念です。
村上:僕はいつも、小説というのは三者協議じゃなくちゃいけないと言うんですよ。
柴田:三者協議?
村上:三者協議。僕は「うなぎ説」というのを持っているんです。僕という書き手がいて、読者がいますね。でもその二人だけじゃ、小説というのは成立しないんですよ。そこにうなぎが必要なんですよ。うなぎなるもの。
(略)
村上:いや、べつにうなぎじゃなくてもいいんだけどね(笑)。たまたま僕の場合、うなぎなんです。何でもいいんだけど、うなぎが好きだから。
(略)
柴田:それはあれですか、自分のことを書くのは大変だから、コロッケについて思うことを書きなさいっていうことですか
村上:同じです。コロッケでも、うなぎでも、牡蠣フライでも、何でもいいんですけど(笑)。コロッケも牡蠣フライも好きだし
(略)
村上:たとえば、柴田さんがここにあるコロッケについて原稿用紙10枚書くとする。柴田さんはただコロッケについて書いているわけであって、柴田さん自身について語っているわけじゃないんだけども、そのコロッケについての文章を読めば、柴田さんの人柄というか、世界を見る視点みたいなものが、僕にもある程度わかるわけじゃないですか
柴田:ええ、願わくば
村上:でも柴田さんが僕に向かって直接、柴田元幸とは何か、いかなる人間存在か、というような説明をはじめると、逆に柴田元幸を理解することは難しくなるかもしれない。むしろコロッケについて語ってくれた方が、僕としてはうまく柴田元幸を理解できるかもしれない。それが僕の言う物語の有効性なんですよね。
村上:コロッケをあいだに引き込むことによって、コロッケに何かを託すことによって、一つの立体的な風景を共有することになる。言葉ではなく、風景を共有するということが一番大事なんです。
人と人との間に「うなぎなるもの」(途中でコロッケに変わってるけど)を介在させることにより、その人の人柄がわかり、言葉だけじゃない立体的な風景を共有できる、という説です。 この話は「ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち」という本での対談なのですが、これを読んだ時、村上春樹って本当に頭の良い人なんだなあ、と感心しました。 *1
Misocaうなぎ説
うなぎなるもの=プロダクト
Misocaにうなぎを持ち込むにあたり、「うなぎなるもの」を何にするのか考えました。 そして、自分たちが日々の仕事で携わっている「プロダクト」について話すのがよいのでは、という考えに至りました。 *2
Misoca版にアレンジ
Misocaチームは小説を書くのとは違って、チーム内で多 vs 多のコミュニケーションを取るので、Misoca版にアレンジして、多人数の中で、うなぎなるものを語りあう、という形式にしました。
これは『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』という本で紹介されている、役職や立場を超えた部署横断で行われるワークショップから着想を得ています。
うなぎミーティング発足
目的
Misoca社内で「うなぎミーティング」を始めるにあたり、以下のように位置づけました。
簡単に言うと
- みんなで共通の話題でワイワイ話そうぜ!
- 話をしたり聴いたりすることでみんなの個性を引き出そう
- ワイワイやってコミュニケーションを活性化していこう
となります。
ミーティングの定義(フレーミング)
最初にこのミーティングについて定義をしました。 話をすることを主眼においているので、それ以上の意思決定などはこの場では行いません。
普段の仕事とは違って、話すことが目的なんだよ、結果を求める場ではないだよ、というフレーミングをしました。
手順
MisocaではTrelloを常用しているので、各自が話したいことをカードにして、みんなの前でピッチする、というやり方をしています。 そこでみんなの共感を得られたものを投票によって決めて、掘り下げて話をする、という流れになっています。
時間があるときは、投票によって選ばれたアイデアと、適当に選ばれた人が個人の主観で選んだアイデア*3の2つについて話をしています。
やらないこと
個人の目線でフラットに話すことが大事なので、会社としてどうするか、話す内容についての優劣など、順位を付けることはやりません。 ただ、時間は限られているため、みんながみんな話したいことを話せるとは限りません。 そこは時間と効果のバランスを見てコントロールする必要があります。
Misocaでは話す内容についてはTrelloのvote機能を使って決めています。
ポイント
「話をする」ことが大事
- NOT 決める場
- 少なくとも一回につき全参加者が一度は発言してもらう
- 喋りがちの人には気もち自重してもらう
参加者がポジティブな気持ちになれることが大事
- NOT ネガティブ
- 一部の人が盛り上がるだけでは意味がない
- 辛い気もちになったらワイワイできない
うなぎについて話した結果
うなぎミーティングを毎週15分ほど時間を取って、12回実施しました。 普段はTrelloを活用していますが、一度オフラインで模造紙に付箋を貼ってやってみる、ということも試しました。
(プロダクトについて話す以上、社外秘になってしまうのであんまりお見せできないのが残念です)
Trelloでやっている様子
オフラインで紙に書いている様子
普段一緒に仕事しない人とグループになってワイワイ話す。
グループで話したことをみんなの前でワイワイ話す。
参加者の声
始めた当初はうまくいくか不安だったのですが、思ったよりみんな積極的に話をしてくれて毎回盛り上がりました。 以下は、社内esaや日報に寄せられたコメントです。
プロダクション
少しずつプロダクトへの反映もされるようになってきた。 具体的な成果はこれからユーザーの皆様の目にも見える形になっていくと思います。
まとめ
よかったこと
一人一人に話をしてもらうことで、その人がどういうバックグラウンドの持ち主で、どういう目線でプロダクトを見ているのかがわかるようになりました。
また、やりたいこと、できたらよいことをみんなで語ることで、その場にポジティブな空気が生まれました。 やる気やモチベーションをあげることにも効果があるんだとよい意味での発見でした。
この取組はすぐに結果が見えるものではないので、長い目で続けていければと思ってます。
これからの課題
毎回同じ話題だとダレる?
今のところ話題は尽きませんが、同じような話題が続くと食傷気味になり、ダレてきてしまうかもしれません。
そうなったときは話題を変えて、別の「うなぎなるもの」を見つけてくる必要があるかもしれません。
話したことを行動につなげていく
現状は、第一弾として話し合うことにフォーカスしました。 今後はよりアクティブな結果につなげていける話もできたらよいかな、と思ってます。
うなぎの輪を広げていく
Misocaが弥生株式会社のグループ会社になってから関係者が飛躍的に増えました。 形態や文化の異なる会社とのコミュニケーションにも有効に使えるのではないかと期待しています。
集大成
ということで、Misocaでの集大成が無事に着地しました。 3年半の間いろんなことに取り組ませてもらったMisocaには感謝の気もちでいっぱいです。
それでは皆さん、こくぼの次回作にご期待ください。
余談
村上春樹のこういう話をたくさん読みたい人は「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」やその他のインタビュー集を読んでみるとよいでしょう。 村上春樹の小説をまだ読んだことがない人には分量的にちょうどいい「スプートニクの恋人」をオススメします。
個人的には村上春樹翻訳のティム・オブライエンがすごく好きですが、人におすすめするにはレイモンド・カーヴァーにしています。